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2012 JAN.

日本で初めて撮られたハジロクロハラアジサシ
撮影 高野伸二
1955年11月1日
千葉県新浜

珍鳥の写真記録

 「今月の1枚」は、私の古いアルバムから高野伸二さん撮影のハジロクロハラアジサシをご紹介したい。
 このアジサシは、近年でこそ美しい夏羽さえ撮影され、観察例が大幅に増えて、完全に珍鳥の座を明け渡している。写真のハジロクロハラアジサシが観察された以前には、日本では伊豆七島の八丈島で1929年11月11日に採集され、徳島県で1回観察されたという記録があるだけのまったくの珍鳥。それが1955年11月1日に千葉県新浜で私たちの目の前に現れた。金魚を養殖していた養魚場の池をしきる巾狭い土手の杭にとまっていて、正確には、そこは現在の浦安市役所の隣にあたるかつての「秋山の金魚池」であった。
 1965年以降19年間で16種類以上の図鑑類や写真集を著した「識別の神さま」高野さんではあるが、見なれないアジサシをすぐには識別できないでいた。手持ちの日本の図鑑には載っていないし冬羽ということもあり、ピーターソンのフィールドガイドと首っ引き。ハジロクロハラアジサシにたどりついたものの、そんな珍鳥に半信半疑だった。
 とにかく記録写真を撮るようにと私は高野さんをせかしたが、「なんだかケチなヤツだなぁ」と気乗り薄の反応。業を煮やした私は、高野さんが最近手に入れたばかりの135mm望遠レンズつきのアサヒフレックスを取り上げ、鉄条網を乗りこえて2−3枚勝手にシャッターを切った。そこらでやっと高野さんが重い腰をあげた。ご自身、腹ばいでゆっくりとアジサシに近づいていく。
 「こらあ〜、何してる!」突然のどなり声。養魚場の主人だ。夏場はコアジサシに金魚を食われ面白くないところに、今度はまた大の男が金魚ドロボウしようとしていると見えたに違いない。同行の志水清孝さんがすっ飛んでいって訳を話した。「だったら表からはいれよ。」でケリがついた。ごもっともではあっても、そうもいかない事情はこちらにもあった。表門まで遠回りしているうちに飛んでいってしまっては、一巻の終わりとなるところであった。
 高野さんはとうとう3メートルほどにまで近づいて、数枚のシャッターを切ることができた。1955年以前に撮られたハジロクロハラアジサシの写真はみたことがないので、恐らく高野さんのこの1枚が日本で最初のものであろう。
 この写真が撮れたお陰で、後に高野さんは念のため関西鳥界の雄、小林桂助さん(翌1956年に保育社から『原色日本鳥類図鑑』、通称『コバケイ図鑑』を出版された方)に写真を送って同定をお願いしたところ、ハジロクロハラアジサシで間違いないでしょうとのお墨付きをいただいた。

 近年とは比較にならないほどに、1950年代では珍鳥の識別可能な記録写真がいつでも誰にでも撮れるカメラ事情ではなかった。ハジロクロハラアジサシが主役の「今月の1枚」を見ただけでは語られない撮影裏話を書き残しておくことも、古き時代の珍鳥事情を知る者のささやかな優越感でありいささかの責務でもあろう、かと。蛇足ながら、記録写真を撮るよう身をもって高野さんを促した私は、流行のサッカーならさしずめ決定的な“アシスト”ということになろう。

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